風邪をひいた日。













ああ、本当に
どうしてこうもタイミングが悪いんだろう。










大佐の匂いがするベッドの中で、俺は自分の情けなさに落胆の溜息をついた。真っ白い布団が俺の腹と一緒に上下したのが見えて、更に溜息をつきながら頭の後ろに積んである沢山の枕に体を沈める。すると更に大佐の匂いがするものだから、俺はまた落ち込む。





誰もが騒ぐクリスマスイヴの夜、俺は風邪をひいた。





風邪、と言ってもそこまで酷いものではない、鼻が少し出るくらいだ。だけれどそれと反比例して咳が止まらず、咳のし過ぎで喉を痛めてしまった。

せっかく年末年始とクリスマスの時期に合わせて久々にセントラルに顔を出したと言うのに、大佐は喉に手を当てる俺を見るや否や物凄いしかめっつら。そして問答無用で俺を自宅へ引き込んでベッドへ直行させたのである。

結果指令部においてきぼりのアルフォンスを案じながら、俺が風邪をひいていても宿で寝かせるのではなく自宅へ連れ込む辺りが大佐らしいというか何と言うか。結局は一緒にいたいと思ってくれているのか違うのか、よく分からない大佐の行動に頭が一杯の俺なのだった。




「けほっ」




軽い、もう何度目か分からないくらいの咳が出る。それだけでも散々咳を連発して扁桃腺の膨れ上がった喉には十分過ぎるダメージで、俺は軽く眉をしかめた。
と同時、ガチャと音を立ててドアノブが回される。


「大丈夫か?」


そう言いながら入室してきた大佐の手には、湯気を立てるマグカップがふたつ。レモンの匂いからして多分レモネードか何かが入っているのだろう。


「ん……大丈夫」


掠れる声で答えれば、大佐は心配そうにこちらに近寄ってくれる。


「熱は?」
「ない。多分下がった」
「そうか……。体調も良いみたいだし食欲もある、今日一日寝ておけば大丈夫だろう」


ぽふ、と頭に手を置かれ、俺は軽く目をつぶった。

……しかし、微妙な違和感に襲われた。手から伝わってくる大佐の体温が、何時もと違う気がしたのだ。
手袋をしているとかしていないとかそういうのではなくて、もっとこう、髪を通してくる温度が重いというか。


「……大佐?」
「ん?」
「……て、なんかしてる?」
「いや?別に何も」


しばし思案してから、俺は頭に置かれた大佐の手を取った。
左手で、軽く握ってみる。







…………




……………………








…………………………………………おい。









「異様に熱いんだけど」
「おや、ばれたか」


軽く肩を上げた大佐の額に、無理矢理左手を乗せる。すると直ぐさま手に高い温度が伝わって、俺は慌ててあてていた右手を左手に取り替えた。


「おお、これは気持ち良い」
「気持ち良いじゃねぇ!アンタ熱あるじゃねえか!……っげほっ、けほ!」
「ああこらこら、大声を出すな。熱と言っても軽くだよ、軽く」
「どこがっ!」


素人目にだって37度はあると予想出来る。いや、もしかしたらもっとあるかもしれない。


「ちょっと待ってろ、今何か温かいものを……」
「既にあるだろう」
「はっ!?」


立ち上がろうとしてふと、大佐が持ってきて今はベッド横の棚の上に置いてあるふたつのマグカップに目が行った。


……何故気がつかなかったんだろう、何時も大佐が飲むコーヒーの香りがしなかった事に。




「……アンタまさか俺が気付くって計画して……?」
「いや、ただ私も飲みたくなっただけだ。発熱はさっき急にだったんだよ。風邪気味だとは自覚していたのだがね」

飄々と言ってのけてから、大佐はごそごそと俺が入っている大佐のベッドに侵入してきた。
流石に焦った俺を余所に完全に侵入しきると、今度は俺を抱きしめにかかる。ぎゅうと頭から抱え込む様に抱きすくめられて、俺はもぞもぞとしか動けない。


「ちょっ、たいさっ!?」
「今日はゆっくり寝て、明日はきちんとクリスマスを過ごそう。私も君も、その方がいいだろう?」
「だけど、っていうかなんで一緒に寝んだよっ!?」
「こっちの方が温かいし、君と一緒に居られるじゃないか」
「ばーかーやーろーうー!暑苦しいっ!!」
「暑いくらいが風邪には調度良いんだ」
「嘘つけー!!」


ぎゃいぎゃいと暴れてみるが拘束は全く溶けない。ぎっと大佐を睨み付けてみれば額にキスが降ってきて、俺は逆に鎮火したように縮まってしまった。


「……折角のイヴなのに……」
「こういうのもなかなか良いんじゃないか?」


抱きしめてくれる大佐の身体から伝わってくる体温が何時もより熱くて、それと同時に俺の心まで温まっていく気がして。
温度を貪るかのようにきゅうと抱きしめてみたら、更に強く抱きしめ返してくれた。




ああ、温かくて、すごく。




……気持ちが良い。







「……たまには、だけど」
「ん?」
「……あったかいから、これでもいいかも」
「お互いの風邪を移しあいそうだがね」



くすりと笑ってから、丸くなる様にしてゆっくりと眠りに誘われた。









「たいさ」
「んー?」



「……メリークリスマス」








end


Prezents By Uduki sakura.
SiteAdress http://otukimi.oboroduki.com/

Thanks and Merry Xmas !

タイトル「風邪をひいた日。」


マガで先に配信したクリスマス小説です。
アメストリスにクリスマスがあったら、の設定になっています……。
クリスマスがないなんて!そりゃあキリストいないけどそんなっ!(涙)

卯月本人が風邪っぽくなったので、そのお返しw(あ)
あまく……なってるといいな!!(えっ)

あ、ちなみにこの小説は
お持ち帰り可能です。
サイトとかにもUP可能、自己鑑賞とか友達に送信っ!など、基本的には可能です。
でも、どこかに必ず月見桜へのリンクと名前表記をお忘れなく!
つまりはコピペするなら最後の名前表記までコピペしていってくださいってことです。
もちろん、このページに直リンクは絶対におやめくださいね?(滝汗)
サイトに上げる方は、掲示板に書き込んでいっていただければ遊びにいきますっていうか是非行かせてください!!(どきどき)

あと、著作権も捨てていませんのでお願いします。
そしてかべがみ、およびタイトルのフォントは別の方に著作権がありますので、そこもお忘れなきようお願いします。
そのた不明な点は直接卯月までお問い合わせください。
お持ち帰り可能期間は2006年が終るまでとします!


それらが守れる方でしたらどうぞどうぞ、もっていってやってくださいませ〜!



というわけで!

メリークリスマス!!



2006.12.24