EVERYDAY







久々に見た司令部の景色は記憶と違わず微妙に色あせた無機質なもので、俺はその廊下を歩きながら部屋に居る筈の双黒に思いを馳せた。  後ろにいるアルに気付かれるといけないので顔には出さない様に努めるけれど、果たしてきちんと隠しきれているかは実は定かではない。相手はアルだ、あいつは俺さえ気付かない様な俺自身の事を軽々と当ててみせるのだから。
さて、遂に仕事場の目の前まできた。軽く息をついてから、俺は一気にドアを開ける。

「ちわっ」

ひょこ、と顔を覗かせて中を見れば、中には見慣れた顔触れが少しずつこっちを確認して久しぶりだという表情を浮かべた。

「あらエドワード君、帰ってたの?」

ホークアイ中尉が優しく声をかけてくれる。はい、お久しぶりですとアルフォンスが答えたりして、俺も頭を下げる。

「えっと……大佐は?」
「あぁ、大佐なら何時もの執務室にいると思うけれど」
「ありがとうございます。アル、ちょっと待っててな」
「うん、いってらっしゃい」

アルを残して、俺は執務室へと向かった。











「おい変態上司!報告書っ!!」

ドアを開き様そう言うと、何とも綺麗に片眉だけ釣り上がった顔を見れる。あの表情結構難しいのに。顔の筋肉が柔軟なんだろう、きっと。

「…………鋼の」

溜息付きで帰って来た言葉ににっこりして、俺は先程鞄の中から引っ張り出しておいた報告書を机に投げた。ばさ、音を立てて机に着地した多少シワの入ったそれは、彼の目線を一瞬独り占めする。

「チェック宜しく」
「あのなぁっ」
「あ、例によって例の如く字の保証はしないぜー」
「君ねぇ……」

眉間を押さえる大佐を見ながら、俺はソファに身を投げた。
久しぶりでありお馴染みの感触に満足しながら大佐へ振り向けば、彼は少し不機嫌そうだけれど満更でもなさそうな、微妙な顔付きで俺を見ていた。報告書には1頁たりとも目を通そうとはしていない。書類は後回しらしい。

「久々に帰って来た挨拶がこれかい?」
「何時も挨拶しないじゃん」
「たまには!」

彼はきちんとした「挨拶」をご所望らしい。
軽く息を付きながら、俺は心地良いソファから腰を上げた。
ツカツカと無機質な足音を鳴らしながら、デスクを挟んで大佐の前に立つ。じっと見上げてくる大佐を目の前に、俺は心の中でほくそ笑んだ。

――驚けっ





「…………っ!」

予想通り、彼は顔を赤らめて少し後退ってくれた。その反応に満足に笑う俺を何事かと見上げる大佐が更に面白い。不意打ちのキスも、こんな反応が見れるなら面白いものだ。

「ひーっかかった!あーおもしれ、アンタ不意打ちに弱いんだもんなー!」

けらけらと笑う俺をしばし唖然と見ていた大佐だったが、数秒後その口に浮かんだ笑みに今度は俺が固まる番だった。

「自分からそういう事をしてくる、という事は、私の反撃も予想の範囲内だと、そういう訳だな?」

エドワード、そう耳元で囁かれて、不覚にも身体が跳ねる。その反応に至極満足という風ににっこり笑う大佐に身の危険をひしひしと感じるが、身体が固まって動かない。


「今夜は寝かせないからな」


今はまだ真っ昼間だ、そう反抗する前に、俺の口は既に塞がれていた。










……これが、何時ものお決まりのパターンだ。
結局俺は帰って来た初日は何かしらの理由で大佐の晩餐になる。

変態でヘタレで無能でけれど優しくてかっこよくて、俺に触る全ての動作が愛おしさに溢れていて、俺もそれが分かるから実は満更でもなくて。

……なんて、そんな風に思ってしまうのはノロケなのだろうか。










「愛しているよ、エドワード」
「何を今更」



 何時でも、何時までも、
 続けばいいな。





END











マガジンでは流していない、サイトだけの書き下ろし小説です。
……なーんて書けば聞こえはいいですが、ぶっちゃけマガで流さなかったネタですw
いやあ、だってありふれてるからさー(笑)
とりあえず、卯月の脳内はこんなロイエドで埋まってます。
こう、ほのぼのなんだか危ないんだかよく分からない感じで(苦笑)

これから鋼のジャンル(ロイエド)については、基本的にマガで配信した小説を加筆修正したものをUPする予定ですが、
サイトだけの特別版!とか、ちょこっとプラスアルファとか、サイトに来てくださった方にもソンをさせない形式にしたいと思います。
……勿論、マガ購読者様にも得点はありますけどねw(にこ)